南区さんぽ道

身近な花の名前 2021年 秋

スベリヒユ
現存最古の歌集といわれる万葉集は、今から約千三百年前(飛鳥時代から奈良時代にかけて)に生まれたといわれています。この歌集の巻頭を飾る歌「籠(こ)もよ み籠持ち 掘(ふ)串(くし)持ち この岡に 菜摘ます子…」は、若菜を摘む娘たちへの求婚の歌で、雄略天皇の作と伝えられています。籠(こ)とは摘み草を入れるかご、掘(ふ)串(くし)とは、草を掘るへらです。
早春、娘たちが野山に出て若菜を摘み食べることは、成人の儀式でもあったといわれて います。いかにも万葉らしい素朴で、生命力にあふれたこの歌は、巻頭を飾る歌にふさわしいものといえるでしょう。
スベリヒユは、万葉の時代から美味な雑草として知られ、さらに「祝い蔓(つる)」ともいわれて軒先に飾られるなど珍重されました。
白幡地区で撮影。
花言葉 無邪気

キツネノボタン
キツネノボタンとは、妙な名前だと思いませんか。キツネが着た服のボタン?そう思った方もいらっしゃったのでは…。
キツネノボタンの「ボタン」を美人の尺度である「立てば芍薬(しゃくやく)、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」の「牡丹」と直ぐに頭に浮かんだ方は、相当な教養人と言っても言い過ぎではないでしょう。中国では、牡丹は、富貴花、花神とも言い、花の王として珍重されています。
では、なぜ牡丹と名付けたのでしょうか?そして、キツネとは?
疑問を解くカギは、葉の形にあります。そうです。牡丹の葉にそっくりなのですね。この点がこの花の悲劇の始まり。 本家本元との差別化を図るために、「キツネの」という注意書きをつけたのですね。「葉は、牡丹に似ているけれど、牡丹のような美しく気品のある花は咲きません。化かされてはいけませんよ」と言うことでしょうか…。
実物は、黄色い五弁の花を咲かせ、小さくて愛らしい。金平糖のような薄緑の実もかわいいですよ。笹目川で撮影。
さらにひと言…。このほかキツネとついた野草には、キツネアザミ、キツネノカミソリ、キツネノマゴなどがあります。

 カヤツリグサ
人間と違って野の草花の名前は、複雑怪奇です。例えば今回の「カヤツリグサ」という名前を聞いて、平成生まれの読者の皆さんは、どんなイメージを抱きましたか?
「カヤ? ツリ、釣り?…。そうか、カヤという餌で魚を釣る」なんてお考えではないでしょうね。昭和の初め以前の生まれのお年寄りなら、即座にカヤは「蚊帳」、ツリは「吊り」とお答えになることでしょう。蚊帳は「蚊屋」とも書き、夏になると、蚊を防ぐために麻製のネットを天井から吊り下げたものでした。
言葉は、時代とともに生まれ育ちそして、役目が終わったら死んでいきます。ところが「蚊帳」(かちょう)については、殺虫剤を使った経験を持つ若い人には、分からなくても、今から千三百年前の奈良時代に生きた人々、特に高貴な人々とって夏の風物詩として極めて身近な存在でした。
名前については、お分かりいただけたでしょうか?じゃ、なぜ何の変哲もない、この野の草「カヤツリグサ」が「蚊帳吊り草」となったのか疑問に思いませんか?
さて、種明しです。ママとお子さんが三角柱の茎の両端を持って、それぞれ別の面を引き裂きます。すると、茎は切れずに広がって四角形になります。もう分かりましたね。この四角形が蚊帳に見えるのです。ぜひ、試してみてください。カヤツリグサは、笹目川右岸(白幡橋から内谷橋間)に自生していますよ。
花言葉 歴史、伝統

マメアサガオ
朝顔については、加賀千代女の俳句に「朝顔に釣瓶(つるべ)とられて貰い水」という名句がありますね。朝顔は中国から輸入され、特に江戸時代に愛好家は増えて盛んに品種改良がなされました。その一部が逃げ出し人里付近の荒れ地で野生化しました。
マメサガオは、熱帯アメリカ原産で、つる性の一年草です。花は、直径1.5㎝程度であちこちに絡みつきながら生育しています。また、花弁は合着して漏斗(ろうと)状になっているため、五角形に見えます。
笹目川で撮影。
花言葉 朝顔には、明日もさわやかに、愛情の絆、私はあなたに絡みつくがあります。

 

メヒシバ
メヒシバは、草むしりの後、ちぎれた枝から直ぐに芽を出して復活します。その生命力の強さから、「世界十大害草」のひとつとされ、また、「雑草の女王」とも呼ばれています。
前回「オヒシバ」をご紹介しましたが、オヒシバは、葉ががっしりとして太く男性的で、一方、メヒシバは、葉がしなやかで、柔らかく、いかにも女性的です。
どちらも「相撲取り草」という別名を持っていますが、どちらが強いか試してみるのも一興でしょう。男相撲が勝つか、女相撲が勝つか見ものですね。
なお、メヒシバは「女日芝」と書き、オヒシバは「男日芝」と書きます。「日芝」は、その名の通り太陽の下ですくすくと育ちます。
笹目川で撮影。

 

イヌホオズキ
どこかで見た花ですね。前にご紹介した「ワルナスビ」の花とそっくりです。
相違点は、ワルナスビの葉は、ギザギザで尖っていますが、イヌホオズキの葉は、広卵形です。また、花はワルナスビの方が大きく、イヌホオズキの花は、少し小ぶりです。ワルナスビには、茎や葉の裏にトゲが生えていて、うっかり触るとかなりのショックがあります。
笹目川で撮影。

キショウブ
花の名の由来については、平安時代、神事にサトイモ科のアヤメ(菖蒲)が使われていたことにあります。その後、ハナアヤメが登場すると、ハナアヤメが「アヤメ」になり、サトイモ科のアヤメが菖蒲といわれるようになりました。
菖蒲の特徴は、葉の中央に縦に隆起した筋があることです。ヨーロッパ原産で、栽培されていたものが小川や池に放置され野生化したものです。
ここ白幡沼には、野鳥や小魚が多く、付近住民の憩いの場になっています。また、春になると白幡緑道は、桜の花の回廊となり、多くの花見客でにぎわいます。
白幡沼で撮影。

ゼニアオイ
江戸時代の元禄のころから栽培されたというゼニアオイ。一説には花の大きさと銭(寛永通宝)の大きさが同じだったところから、この名が付けられたと言われています。アオイは徳川家の家紋ですね。
そこで質問です。この銭を使って犯人を追い詰めた岡っ引きとは誰でしょうか?
正解は「銭形平次」です。1966年から1984年にフジテレビ系列で放映された連続テレビ小説「銭形平次捕物控」はお茶の間の人気番組でした。原作は野村胡堂、主演は大川橋蔵。
1960年代といえば、日本の高度経済成長期。64年には東京オリンピック、70年には大阪万博が開催され、新幹線、高速道路が建設されました。このような時代だったから大切なお金を投げて犯人を捕まえるという奇想天外なドラマが人気を博したのでしょうか?昔から「盗人に追い銭」ということわざにもありますしね。余談ですが、この花を乾燥し(生花でも良い)熱湯をかければハーブティとして楽しめます。
白幡の空き地で撮影。

オオオナモミ
人は、桜、梅、桃などの花木については、それぞれの美しさを讃えて詩歌にも残していますが、何故か道端につつましく咲いている草花については、「雑草」という言葉でひとくくりにして片付けています。辞書によると、雑草は「農作物、庭木、草花の生長を邪魔する野草」とか、「その人にとって名前が分からない雑多な野草」と定義されています。
さて、皆さんは「オオオナモミ」という名前を聞いてどう思いますか?
笹目川堤防で撮影。

フウセンカズラ
小さな白い花を咲かせ、ふくらんだ風船の中に果実を実らせます。果実の中にある種子には白いハートの模様があります。「かずら」とは、つる草の総称で、フウセンカズラは、住宅のグリーンカーテンに使われますね。原産地は熱帯アメリカで、観賞用に栽培された一年草です。
武蔵浦和駅東側の駐車場で撮影。